New York Universityでの、Harold Grad & Cathleen S. Morawetz
A. 気体力学の本や解説
A1. S. Chapman and T. G. Cowling:
Mathematical Theory of Non-Uniform Gases 3-rd ed., Cambridge(1970)
言わずとしれた、気体力学の記念碑的教科書。気体論やるなら絶対所有すべし。
A2. C. Cercignani:
The Boltzmann Equation and Its Applications, Springer-Verlag(1988)
数学的色彩にとんだ著作が多いひとだが、この本は(Chapman-Enskog法の使い方とかではなく)気体力学の概観を知るには、たぶん最も適していると思う。
A3. J. H. Ferziger and H. G. Kaper:
Mathematical Theory of Transport Processes, North-Holland(1972)
A1が高踏的であるという理由で、気体力学の教科書として書かれたもの。本当に親切な本。ただしモーメント法の解説なし。
A4. H. Grad:
Principles of the Kinetic Theory of Gases, Handbuch der Physik, XII, Springer(1958)
H. Grad氏のたぶん最も有名な文献。Chapman-Enskog法の特徴や気体力学についての薀蓄がつまった、素晴らしい解説。ただしなぜか、13モーメント法の解説は貧弱。
A5. H. Grad,
Comm. Pure Appl. Math. 2(1949)331
13モーメント法が知りたければ、この文献を読むべし。ほとんど全てのことが尽くされている。A4がよく文献として挙げられているが、ぜんぜん情報が足らない。
長いこと、引用が間違ってましたね。たぶんショックウェーブの奴を引いてました、失礼しました。いや、あれも有名なんですが。(2007/4/1)
A7. A. N. Gorban and I. V. Karlin :
Methods of Nonlinear Kinetic, Encyclopedia of Life Support Systems(EOLSS), Oxford あるいはcond-mat/0306062
normal solutionの簡潔なよいレビュー。 ただし、具体的なことは、上記本その他で読む必要あり。
Direct Simulation Monte Carlo(DSMC)とかLattice Boltzmannの話は上記本に入ってないのだ、A6に一部はあるが。
非平衡の関係者でない人が、同じグループのメンバーを、飲み屋煙に巻くのに必要なことが書かれてあってとっても便利。
なおこの人たちは、Gradのモーメント法にもとづく膨大な量の仕事があり、ロスアラモスからいくらでも論文をダウンロードできるので、
最近のモーメント法の発展について知りたい方はそちらへまわって下さい。
A8. S. Harris:
An Introduction to the Theory of the Boltzmann Equation, Dover(2004)
初版は1971年とA3より古い。が、BBGKYなどからはじめて、バランスよくChapman-Enskog法とモーメント法の説明の後、気体力学の結果が纏まっている。
大局的な視野を得るのにちょうど良い。A2じゃきつい人にはうってつけ。
A9. T. I. Gombosi:
Gaskinetic Theory, Cambridge(1994)
モーメント法とChapman-Enskog法の比較が丁寧に述べられている。が、もっと詳しく知りたいのう。
A10. H. Struchtrup:
Macroscopic Transport Equations for Rarefied Gas Flow, Springer(2005)
モーメント法とChapman-Enskog法の比較が詳細に述べられている。
モーメント法を進化させたご自身の理論が、これまた詳しく書かれている。
また氏のHP(Struchtrupと打って一発で見つかる)では、原論文がダウンロードできる。
とりあえず、Phys. Fluids 15(2003)2668を落としてきて眺めて気に入った方にはお勧め。
もっと早く知っておればよかったのだがのう。
A12. エヌ・エヌ・ボゴリュウボフ
「統計物理学における運動学の問題」、森・浦島訳、開成出版
B1に収録されている、BogoliubovのProblem of a Dynamical Theory in Statistical Physicsの訳。
買ったばっかで読んでないのに紛失してしまったと思っていたが、
ほぼ15年ぶりに本日棚裏にて発見される。オリジナルはすでに読んでいるが、これを機会に読み直すとしよう。
古典力学からBoltzmann方程式やプラズマでよく登場するVlasov方程式への移行といったBBGKYがらみの話のほぼ原点だ。
A13. Y. Sone:
Kinetic Theory and Fluid Dynamics (Modeling and Simulation in Science, Engineering & Technology.), Birkhauser, New York(2002)
A6の著者による本格的な気体力学の洋書。A6に内容を追加し、わかりやすく書き直した感じ(目次からはわからないだろう)。
A6と似た構成による最新作Molecular Gas Dynamics: Theory, Techniques, And Applicationsもあるが、見てないからよく知らん(目次はよく似ている)。
こちらの「ボルツマン方程式東西事情」よると、この先生(とおぼしき先生-筆者の読みでは)の講義は難解だったそうだ。
おそらくここに書いたストーリーを大真面目かつ厳密に講義したのだろう。
そういえば、A6はとっつきにくい本だった。日本語で書くときやしゃべるときと英語で書くときで差のあるひとなのかもしれない。
論文のほうは読んだものに関する限り明解でわかりやすくお手本にしたくらいだったし、本書も内容の程度を考慮すると相当親切に書いてあるのだが。
A14. C. Cercignani:
Rarefied Gas dynamics - From Basic Concepts to Actual Calculations, Cambridge(2000)
A2に近いテイストで記述されている。 関心のあるテーマをA2の次に読むとよいだろう。この分野の院生以上向け。
A15. R. Soto:
Kinetic Theory and Transport Phenomena , Oxford Univ. Pr.(2016)
教科書だな。B. 気体力学の解説を含む文献に入れるほうがよいが、ここにした。 R. L. Liboff:Introduction to the Theory of Kinetic Equationsっぽい親切な説明だから、輪講というより独習向き。
A16. G. M. Kremer:
An Introduction to the Boltzmann Equation and Transport Processes in Gases, Springer(2010)
よく書けていると思う。無理なく気体力学のミニマムが提示されている。Chapmam-Cowlingより親切でモーメント法が入っていて、Ferziger-Kaperより短い。定番になりそうだな。かつて追いかけた(その発展をさせてもらった)人の本なので、もう関係なくなったのにノスタルジーで買ってしまった。
B. 気体力学の解説を含む文献
B1. J. de Boer and G. E. Uhlenbeck ed.,
Studies in Statistical Mechanics Vol. I, North-Holland(1962)
あの有名なBogoliubovの論文を含む、驚異的に興味深いモノグラフ。
B2. B. C. Eu:
Kinetic Theory and Irreversible Thermodynamics, Wiley(1992)
上の区分にするべきか迷ったが、ここにした。アップデートされたモーメント法など素晴らしい内容と量。
B3. E, H, Kennard:
Kinetic Theory of Gases, McGraw-Hill(1938)
すごく古い本。新しがって統計力学のパートが入っているため、普通の統計物理の本のような印象だが、結構重要なことが書かれている。特に境界条件。
B4. R. L. Liboff:
Introduction to the Theory of Kinetic Equations, John Wiley&Sons(1969)
非平衡統計物理の本だなこれは。単行本としては、最も初等的で親切な13モーメント法の解説がある。他のパートも丁寧でわかりやすい記述。
B5. E. M. Lifshitz and L. P. Pitaevskii:
Physical Kinetics, Pergamon Press(1981)
井上健男訳:「物理的運動学」、岩波書店
あのランダウ・リフシッツ理論物理教程(以下ランリフと短縮)の最終巻。残念ながら、お勧めできない。
B6. J. A. McNennan:
Introduction to Non-Equilibrium Statistical Mechanics, Prentice Hall(1988)
かっては公開されていて、フリーでダウンロードできたのだが今は知らん。Ref.に激しい誤植がある以外には文句の無い内容。個々の話の位置づけとRef.が書き込まれているため、すごく重宝する。非平衡統計物理の教科書としては、学部生には敷居が高いかもしれない。まあ、B10とともに読むとよい。これより先は、原論文にあたることになるだろう。Kinetic Theoryのパートも、結構読みがいがある。
注目!! 2009年8月20日現在で、フリーでダウンロードできました。ただ以前の奴は2M程度だったのが、今度は55M近くゆえなかなか落ちてこない。
B7. I. Prigogine:
Non-equilibrium Statistical Mechanics, Interscience New York(1962)
しばし待て。
B8. L. E. Reichl:
A Modern Course in Statistical Physics, University of Texas Press(1980)
鈴木増雄訳:「現代統計物理」、丸善
高度に圧縮された、統計物理の教科書。大抵のことは書いてある。
後から見ると参考になるが、最初に見ると気体論のパート以外も相当とっつきにくい。ランリフ本と違った意味で上級者向き。
最近、厚くなって読みやすくなったという噂はあるが、手元に無いからわからん。
B9. F. Reif:
Fundamentals of Statistical and Thermal Physics, McGraw-Hill(1965)
中山・小林訳:「統計熱物理学の基礎」(物理学叢書41)、吉岡書店
Chapman-Enskogとか13モーメント法に行く前に知っておくべきことが丁寧に書かれている(訳書では下巻)。他のパートもよい。
B10. P. Résibois and M. De Leener:
Classical Kinetic Theory of Fluids, McGraw-Hill(1965)
B4よりはるかに有名なので多くを語る必要はあるまい。Enskog方程式についての素晴らしい解説あり。
B11. G. H. Wannier:
Statistical Physics, Wiley(1966)
西川恭治訳:「統計物理学」、紀伊国屋書店
B8とは違う切り口で、Chapman-Enskohg等に行く前に知っておくべきことが書かれている。例えば、マクスウェル粒子についてなどだ。
B12. D. N. Zubarev, V. Morozov and G. Röpke:
Statistical mechanics of Nonequilibrium Processes Vol.1 Basic concepts, Kinetic Theory,
Akademie Verlag GmbH, Berlin(1996)
現代化されたBBGKYとでもいうべきな議論がこってりと書かれております。RET(下記参照)の導出は、できるはずだから演習問題としてやってみろとのこと。
B21. C. H. Collie:
Kinetic Theory and Entropy, Longman Inc., New York(1982)
大学図書館(S.U.N.Y)の放出本。amazonで見つけて購入、送料込みで千円ほど。こりゃ古本屋が消えていくのも無理ないな。
内容は、新入生でも入門できる統計物理学(当然だが気体分子運動論がメイン)。だが、内容は豊富で教育的。低学年むけの外書購読用本にうってつけ。
Marcelo Alonso & Edward J. Finn:Physics, Addison-Wesleyを思い出した。
B23. A. I. Ajiezer and S. V. Peletminski:
Metodos de la Fisica Estadistica, Editorial MIR, MOSCU(1981) (注、タイトル英訳:Methods of Statistical Physics)
1990年にスペインの首都マドリッドの本屋で購入。当時日本円で1500ぐらいだった。もちろん原著はロシア語で、これはスペイン語版。内容は、古典量子両多体問題の基礎ってとこ。
ちょっと詰めすぎなうえ量子系(要するにグリーン関数論)が大部分だが、ボルツマン方程式についての漸近的手法に一見の価値あり。英語版があっても良さそうな本だ。
ただし説明は、玄人向き(あのAGDっぽい)。
B24. Bruce J. Berne ed.:
Statistical Mechanics, Part B:Time-Dependent Processes, Modern Theoretical Chemistry Vol.6, Plenum Press, New York(1977)
気体論からの濃い気体へのアプローチと液体論からの流体のダイナミックスへのアプローチがコンパクトに収録されたモノグラフ。
A3、B10、C5、C6およびF8の該当部分を解説した形になっていて、
これ一冊でこの話題が概観できる素晴らしい本。日本では気体屋と液体屋が完全に分離していることが多く、両分野を統一的に理解している集団が非平衡統計物理屋だけなので、
この分野で質問に行ってたらいまわしにされたと感じた院生の人にはうってつけだ。それにしてもオランダは不思議な国だ。
ところでBeijerenはどう読むのだろう。SchoredingerやCercignaniやKnudsenをチェルデインゲルやチャルチニャーニやヌートセンと発音するコミニュティーにいたせいでわからん。
ちなみにベイヘレンと言ってたなあ。
C1. G. A. Bird,
Molecular Gas Dynamics and the Direct Simulation of Gas Flows, Oxford(1994)
表題どうりの本、必見。
C2. D. Jou, J. Casas-Vázquez and G. Lebon:
Extended Irreversible Thermodynamics, Springer(1993)
しばし待て。
C3. I. Müller and T. Reggeri:
Rational Extended Thermodynamics, Springer(1993)
しばし待て。
C4. S. Sasa and H. Tasaki:
J. Stat. Phys. 125(2006)125 or cond-mat/0411052
言訳:雑感のページで取り上げようと思っていたが、月日はながれ、cond-mat/0711.0246(PRLに受理されたそうだ)に最新の研究結果が出ている。
ならばそれも含めた解説なりエッセイを書けば良い、とおっしゃる意見もあろうとは思います。
が、私がcond-mat/0711.0246の内容に対して落ちこぼれてしまいました。
ただ著者の一人田崎晴明教授のWeb日記によると、斬新な内容でかつ高度に圧縮されていて、それゆえに一度リジェクトされたらしく、ハイレベルなものらしい。
(と伝聞調の文体で記述し判定は避けておきます。すいません。)
というわけで、これに対する雑感はしばし延期します。
J. Stat. Phys. 125(2006)125 or cond-mat/0411052の方は、非平衡統計物理の歴史のレビューとしても優れているので、必見とだけ申し添えておきます。
C5. J. P. Hansen and I. R. McDonald:
Theory of Simple Liquids, 2_nd ed., Academic Press
まさに、液体論のバイブル。統計物理が好きなら、関係者でなくても魅了される内容だ。初版のほうが、入門書としてはバランスがよい。
ただしRKTは、第2版から収録(第3版があるとは思わんが)。
C6. J. P. Boon and S. Yip:
Molecular Hydrodynamics, Dover(1991)
より気体論屋むきなのは、こちら。液体のダイナミクスをじっくりと堪能ください。
ただしRKTは、Balucani&Zoppi氏の本も参照。MCT等についても同様。川崎さんのAnn. Phys(1970だったかな)とかまあ文献はいっぱいあります。
D1. H. van Beijeren and M. H. Ernst:
Physica 68(1973)437
Revised Enskog Theory(RET)の原論文。
D2. H. van Beijeren:
Phy. Rev. Lett. 17(1983)1503
RETと通常のEnskog方程式(SET:Standard Enskog Theory)の違いは外力の有無で顕著になる。そのことを最初に言い尽くした論文。
D3. N. Bellomo:
The Enskog Equation, World Scientific(1991)
知る限り唯一のEnskog方程式のみにページの全てをあてたモノグラフ。数学寄り。
D4. M. López de Haro and V. Garzó:
Physica A 197(1993)98
RETってなんじゃという方、必見。外力が無い場合での、普通のEnskog方程式との違いが一発で完璧にわかります。
D5. J. de Boer and G. E. Uhlenbeck ed.:
Studies in Statistical Mechanics Vol. V, North-Holland(1970)
気体中の音速についての歴史的モノグラフ。結局のところ今でも、この本のレベルから大して理解が進んでないじゃないかと俯くのみだ。
ちなみに最近のDSMC計算は、実験を相当定量的にも再現している。次(D6)参照。
D6. N. G. Hadjiconstantinou and A. L. Garcia:
Physics of Fluids 13(2001)1040
この結果を、見事に再現し完璧な説明する気で格闘したことがあったのだが。うう。
D7. Harold Grad:
Comm. Pure. Appl. Math. 14(1961)323
"The Many Faces of Entropy"というタイトルに引かれてコピーし、とうとう自らの無知を思い知る。すまんかった、HAROLD先生。
内容については、しばし待て。
E2. ブローダ:
「ボルツマン」、みすず書房
命日にこの本が手に入るとは。
感想:少し人格的側面を持ち上げすぎ、というか物理的側面の書き込みが分量不足。E1のほうがお勧め。あのC. Cercignaniが書いた伝記も出版されているが
(Ludwig Boltzmann: The Man Who Trusted Atoms)、アマゾンで4千円ちょいか。悩ましいのう。(2009/01/25、買いました、E7参照)
E7. Carlo Cercignani:
Ludwig Boltzmann: The Man Who Trusted Atoms, Oxford Univ. Press(2006)
物理の専門書と違って簡単に読めないかもしれない。だが、年始に英語に取り組む決意をしついでに購入した。TOEICだって受けるのだ。内容については、しばし待て。
F3. L. Boltzmann:
Lecture on Gas Theory, Dover(1995)
"Reprinted from Vorlesungen uber Gastheorie, volumes 1-2, 1896-8"とあるように、ご本人の著作。
ぱらぱらは読んだが、自分用には持ってない。誰か買ってくれ。
F4. G. Gallavotti:
Statistical Mechanics, A Short Treatise, Springer(1999)
第1章の議論参照。コメントは、Lanfordの文献を手に入れるまでしばし待て。
F5. D. ter. Haar:
Elements of Statistical Mechanics, Springer(1956)
戸田盛和訳:「熱統計学」、みすず書房
最初の2章に歴史的にも詳しいBoltzmann方程式の解説あり。というか、この本は万事にわたり、歴史に詳しい。
エルゴード理論についての初等的で古いがちゃんとした解説あり。E5より先に進みたいが、Ruelle本でこけた人向き。
F6. S. G. Brush:
Kinetic Theory Vol.3, Pergamon Press, New York(1972)
2部に分かれていて、part1にこの時代までの気体運動学の歩みがゆったりと書かれている。part2は、ChapmanやEnskogの原論文(英訳)が収められている。手元に置きたい本だな。
F7. E. G. D. Cohen:
Physica A 194(1993)229
F6の最後にあるChapmanによる1966年の講演:The Kinetic Theory of Gases Fifty Years Agoのその後の30年を知るのによい。
ただし濃い気体への発展に焦点が当たっている。似たような内容で落とせる当面すぐ見れるのは次↓。
F8. Matthieu H. Ernst:
arXiv:cond-mat/9707146v1
タイトルは、"Bogoliubov Choh Uhlenbeck Theory: Cradle of Modern Kinetic Theory"。
G. 気体力学(分布関数から出発しないもの)
G1. H.W. Liepmann and A. Roshko:
Elements of Gasdynamics, John Wiley & Sons(1960)
玉田?訳:「気体力学」(物理学叢書15)、吉岡書店
しばし待て。
H1. C. Cercignani and G. M. Kremer:
The Relativistic Boltzmann Equation: Theory and Applications, Birkhaeuser Basel(2002)
これまでノータッチだった相対論的な気体力学を知るために購入。